「一般的発明概念」をめぐって



(2004・11・12発表)

 平成16年1月1日を発効日とし、「一発明一出願」に関する特許法第37条が改正され、これを受けて、遂に、特許法施行規則第25条の8第1項に、「一般的発明概念」なる意味不明語が登場しました。これが特許法自体に登場するのも時間の問題ではないかと危惧されます。

 そこで、同じ漢字圏の中国では何と言っているのかを調べたところ、中国では、問題の「general inventive concept」は「總的発明構思」と訳されていることが分かりました 。我が国では「一般的」と誤訳されているgeneralが、ここでは「總的」と訳されている ことが分かります。「總」(「総」は略字)という漢字は、もともと、「多くの糸を一つにまとめて締めたふさ」という意味なので、「多くのものを一つにまとめる」というニュアンスであることが分かります。してみると、中国人は、この概念を正しく訳していることになります。

 ところで、哲学・思想の分野で、「一般意志」という用語があります。これは、フランスのルソーが提唱したvolonté généraleの和訳ですが、西洋思想と初めて接した明治時代の日本人が、généraleを「一般(的)」と誤訳したものと思われ、この誤訳が、現代の「一般的発明概念」にまで尾を引いているものと思われます。

 別項で述べているように、「single general inventive concept」は、「全体として一つの発明概念」を意味するものです。

 なお、法律の分野では、例えば、民法や民訴法を「一般法」、特許法を「特別法」と呼ぶように、「一般(的)」は、「特別」と対立する概念です。しかし、「一般的」発明と「特別」な発明というような分け方はあり得ないばかりか、ここで問題になっているのは、一出願に含められる「発明の単一性」の問題なので、「一般的発明概念」では意味をなさないことは明らかです。

(2006年4月28日:付記)
 韓国の代理人から贈呈された「日韓特許法の対照集」を見ていたところ、韓国では、問題の「general inventive concept」が「総括的発明の概念」と訳され ていることが分かったので、それなら、台湾も調べてみようと、現地代理人に照会したところ、台湾では、「廣義的發明概念」と訳されていることが分かりました。
 「総括」には「複数のものをまとめる」という意味がありますから、韓国版は、中国版の「總的発明構思」と並ぶ、的確な翻訳になっています。
 しかし、「一般」の発明、「特別」の発明という分け方はあり得ないように、「廣義」の発明、「狭義」の発明という分け方もあり得ませんから、台湾の「廣義的發明概念」は、結局、意味不明です。
 結論として、中国版の「總的発明構思」と韓国版の「総括的発明の概念」が意味内容にふさわしい的確な訳であるのに対し、日本版と台湾版は、ともに、意味不明の落第「珍訳」と言わなければなりません。
 このような違いは、各国における、法の案文を作る役人達の英語力のレベルを示していますが、国民の、全体的英語力のレベルを示すものでもあるようです。